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月の子総論      5.壊れゆく。

 

ティルトは壊れていったのでしょう。
自分を傷つければ傷つけるほど、セツへの愛の証だと信じて。
ショナより、他の誰よりも、
自分が一番セツを愛しているのだと、証明したかった。
だからどこまでも自分に残酷だった気がします。
 
ティルトの計画で、確かにティルト、セツ、ショナたち当事者は、
道化になってしまった。
いったいどちらが操られていたのだか。
あれは救いじゃない。セツとショナにとっては、操られた愛になってしまうし、
ティルトはきょうだい以上に愛する
存在のセツを、他の男のものにするということ。
ただセツに生きて欲しかった。
そして、その契約なくしては、ショナに出会うこともなかった。
 
 
確かに「ギル」は人間でしょう。
でも中身は人魚と人間のハーフでしょう。
あれだけ「人魚と人間は一緒になってはいけない」って
ジミーに言っているのに。
そしてティルトは、人間に憑依してしまった。
「人魚(のティルト)が人間(のギル)と一緒に(憑依して)なった。
そして、ティルトは犬にセツと名づけても、
リタをセツの代わりにすることはなかった。
何故、あの時、セツのいる同じ建物内で、リタと寝たのか?
 
ジミーとアート、セツとショナだけでなく、ティルトとリタの愛も、
歪んでいる気がします。
彼らも呪われた愛だった。
人魚と人間は一緒になってはいけない。
リタは、ティルトの名も正体もまるで知らず、「ギル様」として。
ティルトはギルの財力、権力で、計画を遂行し、さまざまなことをやってしまう。
 
何故リタは、ティルトの力を引き出す、増幅器だったのだろう。
 
 
そして、先ほど書いているとおり、
「人魚と人間は一緒になってはいけない」という言葉、
この言葉を結婚や恋愛に置き換えず、
ただ言葉として「いっしょになる」のなら、
「ティルト」が「ギル」に憑依して、権力で全てを仕組んだ、
これも、「一緒になったらいけない、危険だ、地球が滅びる」
という警告ではないのか?
 
グラン・マの予知は明らかにあいまいで、
歯止めどころか、真実のかくれみのだった。
 
何故、グラン・マは、
未成魚(これは人魚にとって明らかに異質)でセイラの子でジミーの姉妹の
セツに、ロシア行き用のパスポートを渡したのか・・・・・・。
『月の子』には読めなかったサイドストーリー、ありすぎです。


 


ある解釈。これが正しいとは思えないし、思いたくないけれど、
こんな風にも見えるのね。
 
魔女はティルトを利用しようと思った。
だからティルトの大切なセツを、女性化させず、
病気にして病死(仮死状態に?)させた。
ティルトを手に入れるために。
そしてティルトは、地球を滅ぼす計画を立てていく。
でももしそうなら、魔女の目的は、地球を滅ぼすことで――。
そんな魔女が人魚姫の願いをかなえるはずがない。
だから、もし、魔女が目的をかなえるために手段を選ばなかったのなら、
人間を不要と思っていたのなら――。
―――私には見えるんです。ジミーとセツとセツの子のティルトが、
滅んた地球で幸せな夢を見続けると。
地球は滅んだのだと。
ジミーとセツとてぃるとは、滅んだ地球で幸せな夢を見続ける、と。


 

『月の子』は韻を踏んだ暗示的な物語だ。
ベンジャミンとショナが一緒になってはならないというのを、
ずうっとあとで読むと、地球が滅びるというのは、
「ベンジャミン「が」ショナと一緒にならなくては」ではなく、
「ショナ「が」ベンジャミンと一緒にならなくては」
いけない。そういっている風にさえ思える。
ショナがベンジャミンではなくセツを選んだら、地球は滅びる、と。
実際ティルトは「セツの生」と
「セツが(ショナと一緒になって)ショナの卵を産む」
と契約したのだから。
ショナがセツを選んだから地球が滅んだかもしれない
(アンハッピーエンド解釈)。
あるいは真実の愛で、呪いを解き、ハッピーエンドだったのかもしれない
(悲しく切ないハッピーエンド解釈)。
 
ショナもグラン・マも、「ベンジャミン」という名にふりまわされた気がする。
「父は最終的にセイラを選んだ」という言葉で、
ホントにセツを選んでくれないかもとハラハラしたし。
こういう暗示的表現、『月の子』はホント多いです。
 
ショナとジミー(ベンジャミン)の間の違和感。
なんかやたら「この子は子供のジミーなんだから」と
言い聞かせていますよね。
それは、「ショナのベンジャミン」が、
「ジミー(ベンジャミン)」ではないからではないのか?
  
女性化したセツを前にした時のショナの態度。
一言も、この子はジミーだとは言わないし思わない。
それがショナの少女に違和感なくてぴったりだったから、
そうではないのか?
セツこそが、ショナの「ベンジャミン(夢の中の思い人)」だと。
ショナが夢の中の女性を夢で見始めたのは、600年前。
その頃3つ子は同じ卵の状態で、3人に分かれていたとは限らないし。
 
『月の子』の暗示や、語られなかったストーリー。
暗示であとで読んであれ?っと思うこと。読者を幻惑したこと。
それすらも、作者の意図と思えてくる。あるいはカリスマか?
そういう点で、私は『月の子』が、
清水作品の中で、最も完成度が高いと思っていました。
『秘密』と出会う前は。『秘密』はまぎれもなく最高傑作です。


(2007.1/7)


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『月の子−MOON CHILD−』 清水玲子
花とゆめコミックス全13巻/白泉社文庫全8巻

 



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