「3つ子」
『月の子』の3つ子は、実に絶妙な組み合わせだ。
どこまでもセツになりたかった、セツを守るしかないティルト。
恋をし、女性になりたかったセツ。
小さな子供のままでいたかったベンジャミン(ジミー)。
「一卵性の4つ子」はともかく、「一卵性の3つ子」なんてありか?!
と、思うこともあったが、「米国でそういう例があったらしい」 こと
(文献名を残さなかったのがくやまれる)、
『輝夜姫』の、桂、楓、ソギョンのような例もありうるであろうこと
(こちらは人工的。 いうまでもなく清水玲子のフィクションではあるが。)
をみると絶対的には不可能ではないようだ。
誰かが一卵性ではないとしたら、それはティルトだろうが、
かわいそうなので、「3人とも一卵性」ということにしておこう。
『月の子』で双子というと、ティルトとセツがまず注目されるところであろうが、
それは後にまわして、ベンジャミンとセツについて書く。
「ベンジャミンが死んだときセツが女性化する。
ベンジャミンがいるかぎりセツは女性化できない」
と、ティルトとセツは言っているが。
ベンジャミンとセツって、同じ頃同じようなこと(しかも対称的な行動)
をするのよね。
コミックス9巻(文庫版5・6巻) とかもそう。
対称的な発言、表裏な似た運命というか。
『月の子5巻』(文庫版3巻)で、 ジミー(ベンジャミン)は、
「ショナは僕が「ベンジャミン」っていうキレイな女の人になったから、
僕を好きなんだよ 。僕がこのまんまの姿だったら、
きっと好きになってくれなかったんだよ」とセツに言い、
セツは、「(キレイな)「ベンジャミン」も、今のきみも
同じじゃないか。きみが大きくなったらキレイな女の人に
なるんだよ」 と答える。
ジミーは下目使いで問う。
「同じなの? 「みにくいアヒル」も「キレイな白鳥」も」
「ああ同じだよ。そうだろ?」
そういうセツにジミーは問う。
「じゃあどうして「みにくいアヒル」の時は誰もふりむいてくれないの?
同じなのに」
セツは絶句する。
これはのちのセツの運命もあるのだが。
「(ジミーとアートは)もしかしたらためされてるのかもしれない」
とセツはショナに言う。
それは君もだろうとか私は思ってしまうのだが。
なんで「幼少時発育不全」だったベンジャミンが一番丈夫になってしまったのかは、
幼少時、熱だしまくって 抵抗力がついたという理由だろうし、
ティルトは子孫をもうけることができないけど丈夫、
「地球の毒」の病にも、幼少時一度かかってる。
その点セツは・・・抵抗力がなかったとか。
なんとなく納得しているのですが。
セイラの名を継ぐ「セツ」という名前にも。
ところで、3人のうち1人が女性化って真実だったんでしょうかね。
「ティルトは絶対に女性化しない」ので
「2人のうちどちらか・・・」になってしまうんですけど。
私は、「 もしかしたらためされてるのかもしれない」のほうを
重点おいてみてしまいます。
だってセツの好きな人は、セツさえ女性化していれば、
コロっといっちゃう奴なんで、ためすも何もなくなっちゃうんですよね。
(ほんとにまったくもう。)
さて、ティルトです。
ティルトには生殖機能がありません。
セツしか愛せない真性の未成魚です。
(セツはベンジャミンを守りきれなかった上、恋までしてしまった点、
真性の未成魚と言えるんだろうか。)
セツのためならなんでもしてしまいます。
恋もできません。
ギル(人間の男)になったあとも 、リタを愛している自分を自覚していません。
セツしか守れません。
セツを愛すれば愛する程、ベンジャミンを憎みます。
ティルトにとってセツは、自分の愛を注ぎたい対象、自分を愛して欲しい、
そうなりたいという願望でもあり、
かわりに自分を憎いという気持ちを、ベンジャミンに投影したのではないかと思います。
多分、ベンジャミンが憎いというより、自分が憎くて許せなかったんでしょう。
その気持ちが「ベンジャミンが悪いんだ」と。
一種の自己投影で、責任転嫁です。
セツにとってティルトとベンジャミンは、
そして、ティルトにとってセツとベンジャミンは、
自分の願望であったり、自分の一部だったりする。
セツはベンジャミンの女性化がうらやましく、
「ベンジャミンの死」を望むようになり、
ティルトのような行動力が欲しい。
ティルトはセツのみを愛し、そしてセツを憎み、
自分への憎しみをベンジャミンへ投影する。
ベンジャミンはベンジャミンで
ティルトとセツが仲がいいので孤独になり、
アートにひかれたのかも知れない。
この3つ子の組み合わせは本当に絶妙だ。
私が「双子もの」としてこれ以上好きになる作品は、もうきっとないでしょう。
(そういいつつ、『輝夜姫』の楓とか守とか、晶や碧にはまってますが。 )
(2001.4/21)
『月の子──MOON CHILD──』
花とゆめコミックス 全13巻
白泉社文庫版 全8巻
清水玲子