【月夜水の詩】HOME > 清水玲子の本について > 「輝夜姫」『クローンの命〜ドナーと本体・2〜』

 

輝夜姫
「クローンの命〜ドナーと本体・2〜」

 

 「輝夜姫」を読んでショックだった。
 ドナー(生け贄)は、本当に「殺されるため」だけに生まれてきたんだなって。
 最初から16才までしか生きられないのに、ただ、「スペア(本体の交換部品)」になるためだけに生まれてきたんだなって。
 臓器提供のため。生け贄になるため。そして、はじめから16才まで生かすつもりがなかったんだなって。殺すために命をつくるなんて。
 
 
 本体の肉体を補うために、殺されたサットン、聡、守、楓。
 彼らは移植先の本体をのっとってよみがえる。
「ユルサナイ」
「まるで犬の子のように
 私達を捨てた国・土地・人間を許さない。
 私達の命をゲームのように
 もてあそび、利用したことを、許したりしない」
            (輝夜姫12巻P97)
 
 そして復讐は開始される。
 自分たちが世界の要人になって。
「この世の中に社会に「自分」を殺した人間達に」、復讐を開始する。
 
 
 一度殺され、ソギョンの体に移植された楓は、本体を乗っ取ってよみがえる。
「生きていれば双子(正確にはクローン)の桂に必ず会える」
 そう希望をもとうとした楓に、同じくユーリーの体を乗っ取って生き返った守は告げる。
「桂に会いたいか? たとえどんな姿になっていようと?」
 そして楓は知る。
 楓を失って自分も殺されるためだけに生かされていると知った桂は、自殺をくり返し、その「ボディ」を守るために、桂は「脳」を取り除かれた状態で「生かされていた」のだと。
 そして楓は選択する。残酷な結末を。いや、それは「始まり」だったのかも知れない。
 
 
 そして。碧とミラーのケース。
 ミラーに幼少の頃、腎臓をもらった本体のジュリアンは、半ば失明したミラーに、「目」を受け継がせるため、命を捨てる。
 碧は、胃ガンで死ぬ運命だった。
 でも、本体のラシード9世(アナンタ王子)の臓器を受け取って生きることが出来た。
 
 碧、死なないで。生きて。そしてそれは叶った。 アナンタ王子の命と引き換えに。
 碧Fanは言えるのだろうか「あのままガンで死んだほうがよかったね」と。
 由は言えるのだろうか。「あのまま碧に死なれてよかったね」と。
 言えないと思う。
 ミラーは「あのまま目が見えないままでよかったね」とは。
 
 
 スペアが始めからあったら、そしてそれに慣れてしまったら、人はどちらを選ぶのだろうか。見知らぬ他人? 大切な人?
 それは命のことわりに反すること。
 ミラーのために自分を犠牲にしたジュリアンのように人はなれるのか。
 それとも、ソギョン(本体)やソギョンの父親や杏后(晶の本体の玉鈴の母)のように、人はなってしまうのか。
 
 
 由のクローンを見た碧は思う。
 由がダイヤモンドで、YUIはガラス玉だと。
 ガラス玉だとその命には価値はないのか?
 
 
 「輝夜姫」の話は長い。すでに20巻を超えた。
 でも、それぞれのキャラのエピソードを大切にしてきて、様々な問いかけをしているからこそ、この物語は重みも深さも増しているのだと思う。

(2003. 1/23)

「輝夜姫」清水玲子 花とゆめコミックス
1〜20巻/以下続刊

 

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