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           2.許されたいとは思わない。
 
 
 
「許されようと思ったことなど一度もない」
「誰からも、
 許されたいとは思わない。
 この体が死んでも未来永劫――僕の犯した罪が消えることも
 僕の魂が許されることもない。決して」
(『月の子』コミックス13巻・文庫8巻より。)
 
ティルトは自分がジミーに責任転嫁していたことに、気づいていて、
それでも、ジミーを憎むことで、やっと自分をたもっていたのだと思います。
憎しみが人を救うこともあるのだと思います。
 
ジミーは、地球を滅ぼしたと皆に恨まれ、愛する人に殺されるほど、
あやまちを犯したのでしょうか。
むしろ、憎まれるべき罪を犯したのは、サラとミラルダです。
ティルトに、ベンジャミンとセツを守るだけに存在すると思い込ませて、
誰からも愛されないと思い込ませた義母に。
ティルトのジミーへの憎しみは、本当は
ティルトの、自分自身への憎しみの投影ではないか?
 
普通の人だったら、ティルトのたくらみに気づいた段階で、
ティルトを止めたでしょう。
セツにティルトを止めさせたでしょう。
地球を滅ぼさないで。事故を起こさせないで、と。
でも、ジミーは。
すべては自分が悪いからと、自分を殺そうとする。
セツには何も告げずに。
ジミーは、自分の罪を、背負おうとした。
ティルトに憎まれるのも、しかたない。
人魚が人間を愛してはいけないのだから。
 
3つ子には、人間の血も、人魚の血も流れてる。
だから、人間を愛してはいけないと同時に、人魚も愛してはいけない。
ジミーとアートより、セツとショナのほうが、呪われているのではないか?
それでも。人は独りではいられない。
誰かを求めずには、必要とされなければ、生きていけない。
 
ティルトの罪は、セツにも許されないものだったのかもしれない。
実際、女性化したセツは、正気じゃなくなった(気がする)。
ショナを信じてはいないし、愛されている自覚もない。
 
それでも。すべてのあと、セツはティルトへの愛を刻みます。
ティルトが望んだ、かなわないはずの願いを。
ティルトは、セツだけは自分を愛してくれると、
信じて、すがっていたのだと思います。
 
『月の子』は、読むたびに色が変わります。
 
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『月の子』では言葉にならなかった言葉が、『輝夜姫』に出てきます。
「愛している。誰よりも。君が――たとえ、どんなに罪深いとしても、
 その罪ごと愛している」と。(『輝夜姫』27巻より。)
 
それは私がずっと欲しかった言葉です。欲しかった答。
 
『月の子』と『輝夜姫』は、まったく違った物語だけれど、
どこかでリンクしているのだと思います。

(2005.6/26)

 

『月の子−MOON CHILD−』 清水玲子
花とゆめコミックス全13巻/白泉社文庫全8巻



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