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       11.のりこえたもの。
  
 
   
『輝夜姫』の中のドナーの話は、本柱のテーマではないとわかっている。
それでも、私は『輝夜姫』を、「月と地球の物語」というそれ以上に、
「クローンと臓器提供と障害についての物語」として読んでいました。
臓器提供というものを扱う以上、
臓器提供を必要とする側、「障害者」について触れざるを得ない、と
私は思っています。
 
まゆ。碧の看病、大変だったよね。若い女の子のすることじゃ、ないのにね。
キレイなだけじゃないものにも向き合わなきゃいけなかったのにね。
あんた、えらいよ。
 
楓、えらいよ。桂をそして自分を殺した父を、そして、ソギョンを
許すことが、理解することができて。
植物人間になった碧を本当に心配して。目覚めた後も、碧を気づかって。
碧のことが本当に大切になったんだよね。
楓、大好きだよ。もう桂に会えたかな?
守と楓とサットンは、「信じて愛して許すこと」ができたのだ。
 
だから。碧は自ら死を選んではいけなかったのだと思います。
どんなに惨めでも、つらくても、ずるくても、
生きて生きて生きのびて欲しかった。
ほかの何を選んでもよかった。碧には生きて欲しかったんだ。
 
体がマヒが残っても、不自由でも、それでも必死にリハビリして生きていく碧。
碧だけが、できた道があったはずなのだ。それは本体たちの未来だったから。
人を犠牲にしなくても、人は生きていけると。
それを証明できる、唯一の人だったのに。だから。
碧、何で生きてくれなかったの?
 
それは、ドナーを犠牲にした本体たちが、ドナーを犠牲にしなかった場合、
ケロイドで、下半身なしで、心臓の病気を抱えたまま、生きなければいけない、
碧以上に過酷な運命を歩まなくてはいけなかった道だったはずなのです。
それがどんなに大変なことか。そして、そうやって生きている人が、
この地球にどれだけいるか。
 
本体たちは、ドナーを道具にしてしまった。
でも、それだけの理由が、あったのです。
だから、ドナーたちの魂が、憎しみから開放され、
人を愛する心が生まれ、望みを得、浄化された時、
ドナーたちが本体に体を返してあげて、よかったのです。
ドナーたちは本体を許せたのだから。
それは、奇跡で軌跡だよ。
 
彼らは本当に大切なものを手にして、消えていったのだ。
いや、還っていったのだ。

(2005.5/7)



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