好きっすね。清水作品の、この強さともろさをかねそろえたキャラに、ほれこんじゃいますね。
死者の脳を見ることで事件の真相をつきとめる法医第九研究室−−通称「第九」。
その中でも最も残虐な貝沼の事件。
その脳を見た捜査員5人のうち3人は死亡し、1人は精神に異常をきたし入院したという。
見た中で現役なのは、薪さんただ独り。
見た人を狂気に落としめる「貝沼の脳」。
全ての貝沼のデータを処分し、鈴木さんは自分に銃を向けた薪さんに言います。
「オレの頭を撃て、薪。おまえが撃ってくれ。この脳を、もう誰にも見せるな」
確かにね。鈴木さんは、「貝沼の脳」から薪さんを「守った」。
でも、薪さんに、自分を殺させた痛み、苦しみを負わせてしまいます。
薪さんにとって、真実を知ることと、鈴木さんを自らの手で殺してしまったこと、どっちが苦しいか。
鈴木さんはそこまでは考えなかった。
ただ、貝沼から守るために‥‥。
こういう清水玲子の「自己犠牲」の描きかたに、はまってしまう私。
さらっと書いた中の人の愚かさ、残酷さ。
私はそういうところにひかれてしまうんだが。
痛みや闇を知ってしまった人間は、必ずしも人の強さ、正しさのみにひかれるものではない。
だから、清水玲子は、「深い」んだ。
ものすごく深くて、いろんな色をして。
そして問いかける。いくつも、いくつも。
鈴木さんは、薪さんに、「自分を殺させる痛み」までは気付かなかった。
でも、貝沼の脳を全て、見た。
薪さんのために。
すごく苦しいし、怖かったと思うよ。
他の誰も耐えられなかったことだから。
そして真実を知った鈴木さんは、「貝沼の脳」から薪さんを守るために、貝沼のデータを全て処分し、そして自分自身の脳の中にも、貝沼のデータが移ってしまったから、最後には、自分の「脳」の中の貝沼の真実から薪さんを守るために、「自分の脳」も破壊するために、薪さんに、「自分の脳を撃ってくれ」と言う。命を捨ててまで。
そんな鈴木さんは、強いんだか弱いんだか。
正しいんだか、間違ってんだか、愚かなんだか。
泣きたくなる程、いとおしい。
命をかけるとはどういうことだろう。
命を捨てるって、自己犠牲ってどういうことだろう。
命を捨てられた後に残された人はどうなるんだろう。
とにかくこんな鈴木さんを描ける清水先生は、深くて冷静で、人の心の光も闇も、知っているのだと思う。
(2003.2/21)
「秘密−トップ・シークレット−」第1巻
白泉社ジェッツコミックス(A5版)
清水玲子
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