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予言(月の子)

 

 
「月の子」にとって、予言はどういう位置だったのだろう。
さけようのない絶対的なもの?
それとも予言を乗り越えた愛?
あるいは予言に踊らされた悲劇?
 
 
まず、最初にグラン・マが見た予言は。
 ・セイラの子供が地球に帰ってきている。
 ・セイラの子供と、セイラの婚約者の息子であるショナが、
  一緒にならないと残劇の歴史が繰り返される。
 ・セイラの子の名前はベンジャミンという。
けれど、セイラの子供は、3人、いたのいだ。
(ティルト・セツ・ベンジャミン)
  
断片的なものを「ベンジャミン」ひとりに 結びつけたのが、グラン・マの予言の悲劇。
そしてのちにグラン・マは見ます。おそらく、ティルトかセツと思われる、
「セイラの子供」の夢を。
「じゃあいつも 私のユメに出てきていたセイラの子供は 一体誰だったんだ。
 あの子はもっと大きくて───16くらいの少年だった。 
 私はてっきりその少年がベンジャミンで
───みんなを裏切るものとばかり───
あれは警告ではなかったのか───?」
 
 
そして、ショナが何百年も夢に見続けている女性は。
「セイラ。
 夢に出てくるあの人は  たしか そういう名ではなかったか?」
ここ重要です。始めからベンジャミンというわけではなかったんですね。
と、いうか、600年前三つ児は卵からかえっていたのか?
そもそも、3人に分かれていたのか──?  
コミックス4巻冒頭の1969年のティルトとセツの精神年齢と、
1986年現在を比べると、少なくともショナと同じ600歳とは 思えないのです。
 
(ちなみに、「普通」の人魚は卵かえら孵る(かえる)時期は一様だが、
三つ児が地球から「月へ泳いでいった」という記述がないどころか、
月で成長して「泳げるようになった」という記述があることより、
サラとミラルダによって「月」へ運ばれていったであろう時は、 おそらく卵状態だったと思われる。)
だから本当に、ショナが「夢に見ていたベンジャミン」というのが、
果たして本当にベンジャミン本人だったかどうか、謎です。
(と、個人的にひねくれてみたい。)
 
 
次に、ベンジャミン、ティルトと、セツが見た、
「にがよもぎ」と、地球の滅亡の予言。
 
そしてそれを、ティルトは魔女と契約した後、
地球を滅亡させる計画を立て、予知夢を利用しだします。
ベンジャミンと結びつけ、彼女のせいにして、アートに、
ベンジャミンを殺させ、人魚たちの恨みを、あくまで ベンジャミンとアートにきせるため。
 
……そして。
「4月26日。最後の月だ。 それを予知することは出来ない。
いいや。それは予知するのではなく、僕が起こすんだよ。
世界を揺るがす破局(カタストロフ)を」
 
そして、セツの運命を握っているのがティルトなのか。
それとも、ティルトはセツの運命に踊らされていただけなのか。
すべては未だ謎です。
その余韻が、月の子を、解釈によって、万華鏡のように姿を変える、
美しい幻想としているのではないのでしょうか。 数々の童話のように。
 
 
今、連載中の、「輝夜姫」も、 どこまでが、晶たちドナー自身が、運命を切り開いているのか、
どこまでが、かぐや姫(=月の意志)に踊らされているのか、謎です。
そもそも、かぐや姫の後継者の烙印を押された晶にとって、
どこまでがかぐや姫に操られているのか、どこから晶本人の意志か。
ヘヴィーですね。

2001年)

 「月の子」清水玲子 
花とゆめコミックス 全13巻 
白泉社文庫版全8巻 

  

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