「僕の願い。」
 
 
僕は何故、生きているのだろう。
過ちをおかし、罪を見過ごし、
部下を傷つけ、亡くし。
それでも何故、生きているのだろう。
 
 
僕が自ら、命を絶てないからだ。
僕の脳を、誰にも見られたくない。
けれど、その願いは、許されない願いだ。
死してもなお、この脳を見られたくない。
それは、許されない願いで。
それが故、僕は生きる日を、死んでしまう日を、
のばしているのだ、今は。
 
 
僕はまだ、「第九」の夢を見る。
科学警察研究所所長なのに、
「第九」のことしか考えられない。
「第九」の未来しか、考えられない。
僕はまだ、「第九」を愛しているのだ。
散り散りになっても、まだ、
つながっていたいと、願う。
 
 
人を裁く資格など、僕にはないのに。
善悪など、罪など、人には裁けないのに。
 
 
今はただ、僕の幸せではなく、
僕のために、僕がいたために、
赤子のうちに両親を亡くした少女と、
娘を亡くした老婆の幸せを、祈る。
彼女らの不幸が僕のせいならば、
何故彼女らを絶望させ、不幸にしてまで、
自分だけ幸せになれるだろうか。
 
 
これは自己犠牲などではない。
僕の勝手な願いだ。
 
 
これ以上部下の不幸を見て、
僕は耐えられるはずがない。
 
 
自分が幸せにならなくていいのではなく、
自分が苦しみたくないからだ。
 
 
自分の過失で、また誰かが不幸にならないように。
自分の行動で、また誰かが泣き叫ぶことがないように。
 
 
生まれてきたのが間違いだったかもしれない僕と、
出会ったが故に悲しみ、傷つき、嘆く人が、
どうかもう、一人でもいませんように。
 
 

 
 
 
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