「触れないで」
 
 
あの時から僕の時間は止まったまま。
 
 
凍りついた僕の心に触れようとしたお前。
今はその手を突き放す。
 
 
どうかお願いどうか、
真実(ほんとう)の僕に気付かないで。
僕の秘密を聞かないで。
 
 
誰よりお前にだけは知られたくない、
みにくい僕の心。
僕のおかした罪の数々。
 
 
それでも許すと、お前はほほえむかもしれない。
それでもこの秘密、知られたくない。
 
 
お前を見ていたい。お前の声を聞きたい。
お前のそばに居たい。
それでもどうか、僕の罪に触れないで。
 
 
それでも許すとお前は言うだろう。
お前は僕の本心を知らないから。
何も知らないから。
 
 
お前を失いたくないから。どうか気付かないで。
 
 
そばに居たい。どれだけお前に救われたか。
お前の声を聞きたい。お前のそばに居たい。
 
 
けれどこの底なし沼、
見たら、お前も変わるのだろう。
果てのない闇の底、
罪深い僕の、ゆるされぬ願いを。
 
 
お前は真実(ほんとう)の僕の願いを知らないから、
笑ってくれる。
お前は僕のおかした罪の深さを知らないから
ほほえんでくれる。
 
 
お前を失いたくないから、どうか気付かないで。
どうかこのまま、
僕の秘密を、僕の罪を知らないでいて。
 
 
真実(ほんとう)の僕を知らないでいて。
 
 
そばに居て。でも触れないで。
 
 

 
 
 
 
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