『月夜水の詩』HOME > 『深く語る。』 > 「ミラー・3」(輝夜姫)

 
 

 
 

「私はあなた、あなたは私‥‥?」
(ミラー・3 『輝夜姫』)


 

クローニングされて生を受け、同じ遺伝子の人がいて、
もし同じ名前と立場を与えられたら、
その人たちは、同じ人生を歩めるのか‥‥?
 
 
晶は出来ませんでした。
玉鈴として生きることを強制された晶は、抵抗し抵抗し。
それでもなお叶わず、強要され、死ぬことさえ許されなかった晶は、
玉鈴の地位と立場を利用しようとし始めます。
そこには、中国を、全てをかけて愛した玉鈴はいませんでした。
 
そして、ヒロキに全身の皮膚移植させるために殺され、
ヒロキの意識をのっとってよみがえった聡は、
取り消せるはずの無い婚約を、破棄し、
玉鈴(晶)の婚約者の一人として名乗りを上げます。
 
サットンも、よみがえった後、妻子あるドン・ベラミーの、
妻と離婚します。(妻側はそれに応じず、裁判沙汰。)
 
楓は自分を殺し、桂を自殺に追い込んだ、
本体のソギョンとソギョンの父キョンウォンにを憎みます。
憎しみだけで生きているかのように。
 
守については、詳しく語られていませんが、
もともと詐欺師だったし、うまく立ちまわったのかな?
ロシアのマフィアのボスの立場ちょこちょこ利用してたし。
 
碧については、例外的です。
殺されたわけではなく、むしろ、もともと内臓ガンで、
余命いくばくかのところを、
瀕死だったラシード9世(アナンタ)の内臓をもらった。
本体と外見年齢に差があることもあり、ありがたい(?)ことに、
李玉鈴の婚約者として、玉鈴(=晶)の元へ来ます。
 
 
ただ、唯一、ミラーだけは、「ジュリアン」として生きます。
「王位継承者」の立場は利用しても、「ジュリアン」を利用したり、
「ジュリアン」を落としめたりしていません。
晶は、「みてるがいい。その大切な土地と「娘」がどうなっていくかを」
(『輝夜姫』10巻)と、まるで自らを落としめるかのように
怒るのに対するのとは、全然違う。
 
他のドナーがあいついで失踪、行方不明になるなか、
ジュリアンとしての立場を捨てず、王子としての公務も勤めます。
 
(年齢的に)ジュリアンに腎臓移植させるために生まれたかのような、ミラー。
そのミラーの、2つある腎臓の片方をもらい、ジュリアンは成人し、
ジュリアンは命をかけてミラーに目を継がせる。
その思いをくんでいるのか。
 
そしてそのことにより、ミラーはよりミラーらしく生きることが出来た。
ジュリアンの「目」のおかげで。
 
 
ずっと十数年のあいだ、ジュリアンの体の中で、ミラーの片方の腎臓は機能し、
その腎臓により、ジュリアンの体の老廃物はろ過され、
その血液で、ジュリアンの「目」も浄化された。
ちょっと不思議ですよね。
そして全身に麻痺が進行しつつあるジュリアンは、
ドナーシステムと、ミラーが半ば失明したことを知り、
自分の目を継がせるため、入れ替わって、ミラーにジュリアンの
目と名と立場を与え、ミラーとして死んだ。
個体識別しようにも、遺伝子がまるで同じ。
身長体重、ケガの記録等、個体識別するものは、
ジュリアンの生活してきた環境ゆえ、
いわゆる、「バレなかった」というやつですね。
 
でも、必要とされた臓器が、2つあり、1つでも何とか生活できる腎臓ではなく、
たった1つしかない心臓だったら。
ミラーは生まれてすぐ殺されたのか‥‥。
それはもう、わかりませんが。
 
 
クローニングとしてのドナー。
様々な状況があり、それぞれの立場がある。主義主張も感じ方も。
答えはひとつではない。
 
私はあなた? あなたは私?
私はあなたじゃない。あなたは私じゃない。
たとえクローンでも、同一の人格になれるわけではない。
「我」というものがある限り。

(2004.8/7)
 
「輝夜姫」清水玲子 花とゆめコミックス
1〜24巻以下続刊+ララ掲載分



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