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清水玲子作品における狂気・2(『月の子』)

「透明な狂気」


 

ティルトとセツは、幼い頃から2人だけの世界をきずいていました。
2人だけの透明な世界。
その世界は、セツの死によって壊れます。
でもティルトはあきらめない。
セツを生きかえらせるかわりに「地球を滅ぼす」と、魔女に誓い、
セツを生きかえらせます。
なのに生きかえったセツはショナに恋をしてしまいます。
ティルトにとってはセツしかいないのに、セツはティルトから自立しようとします。
ティルトだけのものであったセツが。
自分はこんなにギセイをはらっているのに。
 
ティルトは壊れていきます。セツが全てであったゆえに。
自分がセツの運命をにぎっている。
自分がセツを生かしている。
それが彼(彼女)を支える唯一の糸でした。
 
自分は地球を滅ぼそうとしている。
でも全てはベンジャミンとアートのせいだから。
いつしかそうすりかえてしまいます。
ティルトはアートを壊していこうとします。
そうしてアートにベンジャミンを殺させようと。
ティルトの計画には、「セツに卵を産ませる=セツを女性化させる」が
必須条件でした。
ベンジャミンが死なない限り、セツは女性化できない。
だから、一番残酷な方法で、ベンジャミンを殺そうと。
 
 
リタはずっとティルト(というかギル)のそばにいました。
ギル様は苦しんでいる。自分で自分を追いつめている。
この人を守りたい。
でも、リタは少しズレた人でした。
カンがよく、かしこい人でしたが、ズレてました。思い込みの激しい人でした。
リタもティルトにひきずられるかのように壊れていきます。
ティルトのことを誰よりもさとったのに、その認識にズレがあって、
自分に酔って、ティルトをカンちがいして愛します。
ティルトの行動を、自分のいいようにとります。
 
クライマックスで、正気だったのは、(月の子メインキャラ5人のうちでは)
ショナだけのように感じます。
 
ピュアすぎるティルトの暴走から始まった狂気。
思いが深すぎて、ゆがんで。
『月の子』の狂気はわりと自然に受け入れられるのは、私だけでしょうか。

(2004.2/5)
 
「月の子−MOON CHILD−」清水玲子
花とゆめコミックス全13巻/ 白泉社文庫版全8巻



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